有田正規

急激に増えた情報の中から知識の取捨選択を迫られる現状は,人間を知的活動からむしろ遠ざけているように思う。これはすなわち,従来型の学問が岐路に立つことをも意味している。これまでの学問はおしなべて,精神を1つの物事に集中させる過程が本質にあった。古典の音読に始まり,文献読解,自然観察,帰納推論など,知的と呼べるものはいずれも,忍耐とトレーニングを要する活動であった。昔の大学人が世の中と隔絶された環境に身を置いたのも,これと無関係ではない。しかし今は,さまざまな情報を切り貼りして体裁だけを整える作業,論文数や引用数など数値化・形骸化された指標を満たすだけの作業を,学問や研究の目標にする人があまりにも多い。旧来の制度や慣習のまま,ビッグデータを誤用しているのである。